(オープンイノベーション講座-15)
中小企業におけるオープンイノベーション

本稿では中小企業にまつわるオープンイノベーションについて紹介する。

中小企業におけるオープンイノベーションについての研究状況 

世界的に見ても中小企業は大企業より数が多く、雇用の大部分に貢献している。例えば2014-2015年度のEU圏の中小企業に関する年次報告では、非金融企業の99.8%が中小企業で全雇用の67%を占めている。

Chesbroughの著作以後、オープンイノベーション研究の多くが研究開発を精力的に行っている大企業を対象としたものであった。以前の記事においてオープンイノベーションが広まった背景に3つのトレンドがあると説明したが、これは中小企業にも当てはまる(オープンイノベーションの基本事項「なぜ今オープンイノベーションなのか?」)。したがって中小企業にとってもオープンイノベーションを取り入れるモチベーションがあることになる。

Hossainは中小企業におけるオープンイノベーションの研究状況をまとめている。

ポイントは以下の通り:
  • 最近までのオープンイノベーションの研究は主に大企業を対象としていた
  • OECDの研究によると、積極的にオープンイノベーション活動を行っている中小企業は5-20%に過ぎない
  • 本レビューは「オープンイノベーション 中小企業」のキーワードを用いて複数の論文データベースから抽出された61論文に基づいている。抽出作業は2003-2014年に出版された英語の論文を対象として、2014年12月に行われた
  • EUで行われた研究が主で、中国・韓国のものも見られる。一方で北アメリカでの研究が不足している
  • ほとんどの研究で単純な統計分析が用いられており、インパクトのある記事はパネルデータに基づいている。1次データに基づいた研究からは直観的な結果が導かれている
  • 中小企業にとってR&Dのような初期的な活動よりも、商業化におけるオープンイノベーション活動が役に立つ
  • 中小企業は選択的な技術のみを保護しているため、大企業よりも注意深く特許を扱う必要がある
  • 中小企業は大企業と比べて外部技術の導入に対する意欲が低い
  • 中小企業は漸進的イノベーションよりも新製品開発に関連したオープンイノベーションを好んでいる
  • 企業年齢が若いほどオープンイノベーションを採用している
  • 中小企業を対象とした研究はハイテク分野のものが多い
  • 大企業と異なり国や地域の政策の違いが中小企業のオープンイノベーションに重要な影響を及ぼす
  • 中小企業の外部知識の内部への吸収能力や内部知識の外部への移転能力に関する議論は少ない
  • 中小企業は限定されたリソースのため、維持できるネットワークの数に制限がある
(参照)
Hossain M (2015) A Review of Literature on Open Innovation in Small and Medium-Sized Enterprises, Journal of Global Entrepreneurship Research, 5(1), 1-12

中小企業のオープンイノベーションを対象とした研究はそれほど多くはないものの、既に大企業で行われてきた研究の観点が転用できることから、今後の進捗が期待される。

大/中小企業はどちらがオープンイノベーションに向いているか? 

豊富なリソースを持つ大企業の方が、中小企業よりもオープンイノベーションに向いていると思われがちである。しかしながらHafkesbrinkらは中小企業が大企業よりもオープンイノベーションを取り入れやすいと主張している。

ポイントは以下の通り:
  • 大企業と比べて中小企業は限定的なリソースしか持っていないため、イノベーションを実現するために外部パートナーと協業する必要がある。一方で外部パートナーを見つけ、知識を吸収する能力を欠いていることが多い
  • 中小企業は大企業と比べて以下のような組織的な違いがあるため、よりオープンイノベーションに向いている:
  • ハイテク分野の中小企業は一般的によりオープンである
  • 中小企業は直観的にオープンイノベーション活動に取り組んでいる
(参照)
Hafkesbrink J, Kirkels Y (2016) Open Innovation in SMEs. In Mention A-L, Nagel A P, Hafkesbrink J, Dabrowska J (eds) Innovation Education Reloaded, Open Innovation Network, Lappeenranta, 282-301

大企業がオープンイノベーションを取り入れる際の大きな障害として、企業文化や組織体制が挙げられる。中小企業ではそれらが未成熟なところも多く、トップダウンによる全社的な変革への意思の統一が容易である。したがって中小企業は大企業よりも短期間でオープンイノベーションを根付かせられる可能性がある。

中小企業のオープンイノベーションと知的財産権 

中小企業は少数の技術しか保有していないことが多いため、大企業と比べて1つの技術の重みが大きい。そこで重要となるのが特許戦略である。Granstrandらは技術ベースの中小企業における特許の役割について議論している。

ポイントは以下の通り:
  • スウェーデンの大企業・中小企業91社を対象として行われた第1調査から、特許を取得する主な動機が以下であることが分かった:
    • 製品化に用いる技術の保護
    • 自由実施権の確保
    • 競合他社の参入阻止
    • 訴訟リスクを低減するための報復力の獲得
    • 投資家に対する企業イメージの向上
  • インサイドアウト型のオープンイノベーション活動に取り組む企業は、技術の保護や交渉材料として特許を取得するモチベーションが高い
  • 中小企業にとって資金調達がしやすくなることは特許取得の強い動機の1つである
  • 第1調査の対象に技術系ベンチャー81社を加えた第2調査において、イノベーションの収益化における特許の役割が調べられた
  • 従来のクローズドイノベーションと異なり、オープンイノベーションでは特許取得によって資金調達の範囲が広がる
  • 技術系ベンチャーは特許をR&D・売上高・利益を増加させる以上に企業価値を増大させ資金調達を容易にするためのものと考えている
  • 69%の技術系ベンチャーが資金調達のために特許が重要であると考えている
(参照)
Granstrand O, Holgersson M (2016) The role of patents in open innovation and financing, Awapatent Foundation

外部とのやり取りがないクローズドイノベーションでは、技術を自社内にノウハウとして蓄積できる。一方でオープンイノベーションを取り入れて積極的に外部の組織と協業する場合には、技術を特許として保護しておくことが望ましい。資金調達のオプションが増えることも考慮すると、技術の特許化は中小企業にとって重要な活動と言える。

オープンイノベーション型中小企業 - スピンアップ

中小企業の中には大企業よりも積極的にオープンイノベーションを取り入れている企業がある。例えばSatinskyは成り立ちがオープンイノベーションに基づいている中小企業であるスピンアップについて紹介している:
  • スピンアップは大学や研究機関から技術ライセンスを受け、短期間で開発した技術のライセンスアウト・他企業による買収・商業化を目指す企業である
  • スピンアップの基本的なロードマップは以下の通りである:
    1. 商業化の可能性がある技術を抽出する
    2. 技術を商業化まで持っていくための開発計画を作る
    3. 知的財産権の受け皿となり技術開発を行う企業を立ち上げる
    4. 開発責任者とビジネスマネージャーを含むチームメンバーを採用する
    5. 主要メンバーに株式を分配する
    6. 技術ライセンスを受ける交渉をする
    7. 開発を行う研究室や設備を手配する
    8. 資金調達をする
    9. 開発を行う
    10. 開発の進行中に技術をライセンスアウトする可能性を探る
    11. 技術の追加開発後に販売活動を行う
    12. 技術ライセンスや企業買収の交渉をする
    13. 得られた収益を分配する
  • スピンアップの成功要因は技術・チーム・開発計画・資金調達・出口戦略である
  • 技術は追加開発が短期間で済むものを選ぶべきである。医薬品や医療機器など商業化の際に手間の掛かる承認プロセスが必要な技術は適していない
  • 技術を商業化する際には潜在的な顧客との対話が必要となるため、当該分野で経験を積んだビジネスマネージャーが必要となる
  • 開発にマイルストーンを設定し、各段階で必要なリソースと資金調達の方法を予測しておくことが望ましい
  • 各国政府は初期段階の技術に投資を行う仕組みを用意しており、株式の希薄化を伴わないために有用である
  • 技術開発が成功した際に、欲を出して当初の想定より企業を大きくしようとしないことが重要である
(参照)
Satinsky D (2016) Emergence of the SME as a Source of Market-Ready Technologies, In Escoffier L, La Vopa A, Speser P, Satinsky D (eds) Open Innovation Essentials for Small and Medium Enterprises, Business Expert Press, New York, 121-150

スピンアップにはスピンアップ創業者・開発責任者・ビジネスマネージャーの全てが存在する環境が必要である。よってアメリカのシリコンバレーのような人材の流動性が必要であり、現時点の日本では成り立ち難いかもしれない。

しかしながら今後は日本でも環境が変化して、本モデルのような企業が出てくる可能性もある。現在大企業に勤務している研究開発やマーケティング/営業部門の人々にとって、キャリアの選択肢の1つとなるかもしれない。

おわりに

一般的に自社の方針を検討する場合、類似企業である競合他社の動向ばかりを参考にしがちである。しかしながら異なる規模や業種の事例から斬新な発想が得られることも多い。

オープンイノベーションは分野として未成熟であるため、活動を進める上での定石がいまだに少ない。そのような状況においては自社と異なるタイプの事例も貴重な学びの元となる。ある特徴を持った中小企業がオープンイノベーションで成果を出しやすいことが判明すれば、大企業がその一部を切り出して同様の組織を作り、活動を推進することが有効かもしれない。そのため大企業にとっても、中小企業を扱った研究は価値のあるテーマではないだろうか。

Tom

ご意見やご質問はthomas.openinnovation@gmail.comまでお気軽にお寄せください。
可能な限りご返事いたします。
また当ブログに掲載されている文章・画像の無断転載はご遠慮下さい。

0 件のコメント :

コメントを投稿