(オープンイノベーション最新情報-114)
デザイン思考を活用したオープンイノベーションコンテスト

サステナビリティに関するテーマを対象として実施されたオープンイノベーションコンテストにおいて、問題提供者と問題解決者がやり取りをするプロセスを導入した事例が報告されています。

Innovating for sustainability through collaborative innovation contests
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0959652621018461

ポイントは以下の通りです:
  • Sustainability oriented innovation(SOI)は、組織が製品・プロセス・実践に加えて哲学・価値観を意図的に変化させることで、経済的利益と共に社会的/環境的価値を生み出すことである
  • SOIは複雑で不確実性が高いことから多くの企業にとって達成が難しく、外部の知識を活用して取り組みを加速させることが提案されている
  • 様々な手法の中でも一般の人々を巻き込むオープンイノベーションコンテストは、サステナビリティに関する問題に取り組む企業に適している。その利点は以下の通り:
    • 社会のニーズ・アイデア・期待が把握できる
    • 一般の人々の言葉を理解できる
    • 一般の人々と信頼に基づいた対話ができる
    • 全ての関係者に対して価値を創出できる
  • オープンイノベーションコンテストの問題の1つとして、提案された解決策とそれを実施する企業の能力との間のミスマッチが報告されている
  • 本研究では問題提供者と問題解決者が協力するオープンイノベーションコンテストをcollaborative innovation contestと呼ぶ
  • サステナビリティに関する問題に取り組む際には、人と環境システムとの間の相互作用から生じる複雑なダイナミクスの理解に焦点を当てる必要がある
  • 環境や社会的問題を扱う分野において、人間中心的なアプローチで問題の定義を解決策に橋渡しするデザイン思考が普及している
  • デザイン思考は、デザイナーの感覚や手法を使って、人々のニーズから技術的に実現可能な製品/サービスや実行可能な事業戦略を生み出す手法である
  • サステナビリティに関する問題にデザイン思考を活用することで、多様な関係者の興味を取り込み、協業を促進した事例が報告されている
  • 本研究ではデザイン思考のアプローチを組み合わせたオープンイノベーションコンテストの事例を分析した
  • 対象は2018年の秋にオランダ北部のフリースラントで実施されたSustainable Innovation Challengeである
  • 地域で事業を営む企業のサステナビリティに関する取り組みを加速させるため、仲介組織の支援の元で、企業と公的機関から構成されるコンソーシアムが開催した
  • 以下の3つの領域で16件のチャレンジが掲げられた
    • 循環経済とエネルギー効率
    • ソーシャルイノベーション
    • 持続可能な組織イニシアティブ
  • それぞれ3~6名の学生・ユーザー・専門家・一般の人々からなる50チームが参加した
  • 実施期間中にはデザイン思考に基づいた複数の段階が設けられ、問題提供者と問題解決者のやり取りが奨励された
  • 得られた結果は以下の通り:
    • 問題提供者はアイデアの創出/実証・協業パートナーの発見・事業の生き残りのため、問題解決者は自身の売り込み・学習・社会貢献を動機として参加した
    • 問題提供者が問題解決者と積極的に関わる利点は以下の通り:
      • 質問や確認を通じてチャレンジに関する不確実性を下げられる
      • 企業に合った解決策を開発できる
      • アイデア創出やコミュニケーションを促進できる
    • 問題提供者が問題解決者と積極的に関わる欠点は以下の通り:
      • 問題提供者側に工数が掛かる
      • 斬新なアイデアの創出を制限する
    • 求める製品に技術的な要件が定められたチャレンジには、サービスやプロセスを扱うものと比べて以下の課題がある:
      • デザイン思考を適用することが難しい
      • 時間の制約のために技術面で深く検討できない
    • デザイン思考は人間的な側面を含んだチャレンジにおいてより効果を発揮した
    • 問題提供者として参加した企業が得られたものは以下の通り:
      • 新規な協業の機会
      • 問題に対する深い理解
  • オープンイノベーションコンテストにデザイン思考による協業プロセスを含めると、提案された解決策とそれを実施する企業の能力との間のミスマッチを解消できる可能性がある

問題提供者と問題解決者が協力するオープンイノベーションコンテストの使いどき

本報告によると、オープンイノベーションコンテストにおいて問題提供者が問題解決者とやり取りをすることで、よりより解決策が得られることが分かります。一方で欠点として挙げられている工数の問題は解決策が得られる対価と考えると当然のことですし、創造性への制約は振る舞いを意識すれば改善できるのではないでしょうか。しかしながら実際には両者の協業プロセスを組み込んだコンテストは一般的ではありません。

オープンイノベーションコンテストには求めるものによって様々な種類があります(オープンイノベーションコンテストを実施する手引き)。技術的な要件が詳細に定まっていれば、問題提供者の意図が問題解決者に明確に伝わります。一方で幅広い解決策を対象としたアイデアを求める募集などの場合には、問題提供者の置かれた文脈を伝えきれないため、求められていない解決策が提案される可能性が出てきます。

そのような場合においては、両者の協業プロセスは大きな効果を発揮することが期待されます。しかしながら実際に実施することは難しいかもしれません。まずオープンイノベーションコンテストを自社単独で実施する場合、問題解決者と適切にやり取りできる人材が必要です。仮にテーマ元の部署に適任者が居たとしても、目の前の業務で忙しければ、協力を得ることは難しいと思われます。

多数のオープンイノベーション仲介業者がオープンイノベーションコンテストを代理で実施するサービスを提供しています。現在のところ国内の仲介業者の中で本報告のような協業プロセスを組み込んでいるところは見当たりませんが、今後出てくる可能性は十分にあります。しかしながら増えた工数分の人件費が上乗せされるでしょうから、従来よりも高額になるのではないでしょうか。

また時間を掛けて提案を準備するのは問題解決者側であるため、ある程度は見当違いのものであっても仕方がないと問題提供者が考える可能性もあります。もちろんそのような非効率なやり方でオープンイノベーションコンテストを実施し続けていると、悪い評判が広まり提案が集まらなくなるでしょう。ただ中長期の話であるため、協業プロセスを組み込むコストを超えるものではなさそうです。

一方で自治体などの公的機関が主体となって実施する場合は、問題解決者として参加する市民などの満足度に注意を払う必要が出てきます。また費用面も企業と比べると余裕があるのではないでしょうか。本報告では地域の企業のサステナビリティに関する取り組みの支援が目的と記載されていますので、もしかすると公的な資金が使われた可能性があります。

Tom

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