(オープンイノベーション講座-2)
オープンイノベーションとクラウドソーシング

本稿では混同されることが多いオープンイノベーションとクラウドソーシングについて、その違い明らかにしたい。

クラウドソーシングの定義

クラウドソーシングはcrowd(群衆)とsourcing(業務委託)を組み合わせた造語であり、2006年にWIREDの編集者であるJeff Howeによって定義された: 

Crowdsourcing represents the act of a firm or institution taking a function once performed by employees and outsourcing it to an undefined (and generally large) network of people in the form of an open call.
(参照)
Howe J (2006) Wired Blog Network: Crowdsourcing

その後も様々な人々が異なる表現で定義しているが、おおむね「(主に組織外の)不特定多数の人々に公募を通して業務を委託する」という点で同意が取れている。従来のアウトソーシングとの違いは「不特定多数を相手に公募を通して」行われる点であり、それを実現したのはインターネットの発展による情報の共有化である。

クラウドソーシングの種類

クラウドソーシングは異なる観点から複数の手法に分類されている。例えばHossainは頻繁に用いられる手法として以下の3つを取り上げている:
  1. Idea contests
    • オンラインで行われるアイデアコンテストである
    • 大企業が主催することが多く、自社もしくは仲介業者のプラットフォームを用い
    • 一定の募集期間を設け、提案者のモチベーションを上げるために報奨金を設定することが多い
  2. Idea generation by online communities
    • 特定のコミュニティと双方向のやり取りをしながらアイデアを創り出す
    • やり取りを通じて初期のアイデアに磨きを掛けることができるため、質が高い成果が得られる可能性が高い
    • コミュニティを円滑に運営する能力が求められる
  3. Microtasking
    • 業務を細分化して不特定多数に発注する 
    • 発注される業務はデータ入力や簡単な翻訳など単純作業であることが多
    • 従来と比べて非常に安価で納期が短い
(参照)
Hossain M (2016) Embracing Open Innovation to Acquire External Ideas and Technologies and to Transfer Internal Ideas and Technologies, Doctoral Thesis, Aalto University, Helsinki, Finland

またSivula3つの対象knowledge・resource・funding分類している
  1. 知識を対象としたクラウドソーシング(Crowdknowledge
    • Crowd wisdom:
      群衆がアイデアや製品を発展させる
    • Crowdvoting:
      群衆の投票により大量のデータを処理する
    • Crowdevaluation:
      群衆がアイデアや製品の評価する
  2. 資源を対象としたクラウドソーシング(Crowdsourcing
    • Crowd creation:
      群衆が製品やサービスを創り出す
    • Microtasking:
      群衆が細分化された単純作業を行う
    • Macrotasking:
      特殊技能を持った群衆が高度な作業を行う
  3. 資金を対象としたクラウドソーシング(Crowdfunding
    • Crowdfunding of a project:
      群衆が製品やサービスの開発資金を提供する
    • Crowdfunding of an organization:
      群衆が組織の運営資金を提供して株を取得する
    • Crowdfunding as a loan:
      群衆から(個別には少額の)資金を借りる
(参照)
Sivula A (2016) Generic Crowdsourcing Model for Holistic Innovation Management, Doctoral Thesis, University of Vaasa, Vaasa, Finland

大規模な組織の場合、外部だけでなく海外拠点や異なる事業部など内部を対象としたクラウドソーシングも有効である。同一組織でも規模が大きくなるほど知識が分散するため、クラウドソーシングで相互作用を促進する効果が大きい。

オープンイノベーションとクラウドソーシングの違

前回の記事でオープンイノベーションが「methodではなくphilosophyでありmindsetである。つまり単なる一手法ではなく行動を決めるための考え方である」と書いたオープンイノベーションとは?。クラウドソーシングは手法の一種であり、オープンイノベーションとは分類が異なる。クラウドソーシングの一種であるアイデアコンテストをオープンイノベーションと言い換えている人もいるが、これは正確な表現ではない

企業を例にして考えると、まずは実現したいと考える企業理念がある。次にそれを実現するため企業戦略があり、それを支えるためのR&D戦略がある。その後にオープンイノベーションという考え方が必要かどうかを判断する。オープンイノベーションを企業戦略に組み込むと決めた場合において、一連のアクションの1つとしてのクラウドソーシングが検討される。

繰り返しになるがオープンイノベーションやクラウドソーシングを採用するかどうかは、さらに上位の企業戦略の部分で考えるべきである。それをしないで安易に飛びついたとしても、その後に待っている生みの苦しみを乗り越えられない。

おわりに

オープンイノベーションやクラウドソーシングを流行り言葉として扱うのではなく、その成り立ちや定義を正確に理解することが真の成果への近道である

Tom

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参考図書 -クラウドソーシングの衝撃」著者:比嘉邦彦, 井川甲作

本書はクラウドソーシングが普及する時代において、個人や企業がどのように対応すべきかをまとめた書籍である。

著者は日本大企業関係者の「余剰の社内資源を大量に抱えているため、外部の資源を用いるクラウドソーシングなど活用できない」との意見に対して、社内もしくはグループ内を対象とした限定的なクラウドソーシングを提案している。

実際に海外の大企業社内の知を有効活用するために、イノベーションマネジメントソフトウェアを用いてお互いにアイデア出し合うコミュニティを運用している。ソフトウェア提供会社の例としてQmarkets(http://www.qmarkets.net/)があり、160社を超え企業が活用している。ホームページの顧客紹介を見ると日本の企業として三菱電機の名前が確認できる。

私自身もQmarketsのIdea & Innovation Managementソフトウェアで作られたコミュニティに参加したことがある。仕組みは非常に簡単で、以下の流れで運用が行われていた
  1. 社内の運営責任者が各事業部から集めてきた課題と解決策に必要な要件を定義する
  2. コミュニティの参加者が解決策を提案する
  3. 他の参加者が解決策に対して質問やコメントを出し、提案者とやり取りを行う
  4. 一定期間後に募集を締め切る
  5. 少人数のチームが提案を評価する
  6. 最終的に残った提案を評価し実際のアクションにつなげる  
参加者はソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)アカウントを与えられ、提案コメントに対してポイントが与えられていた積極的に活動すればするほどポイントが貯まり、ブロンズ・シルバー・ゴールド・プラチナといったランク付けられる。このようなゲーミフィケーション的な要素も含まれている。

一方で参加者は社内の一部の者に限定されていた。参加しない人のコメントとして「具体的なメリットがないのにせっかく考えたアイデアを人に教える気はない」といった発言あった。お互いに協力しようとする企業文化がない限り、仕組みだけ整えても成果に繋がらないことに注意が必要である

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