(オープンイノベーション講座-5)
オープンイノベーションとユーザーイノベーション

本稿ではオープンイノベーションと共に話題にされるユーザーイノベーション位置付け明らかにしたい。

ユーザーイノベーションとは?

ユーザーイノベーションは1970年代後期MIT Sloan School of Managementのvon Hippelらにより研究が開始されており、イノベーションの源としてユーザーを生産者と同じ程度もしくはより重要なものとしてとらえる考え方である。

1976年の報告においてvon Hippelは過去数十年間にわたる4種類の科学機器のイノベーションを調査している。結果としてその77%が生産者である科学機器メーカーではなく、ユーザーである科学者によって開発されたことが明らかになった。今日の様々な分野におけるイノベーションの中には、ユーザーによって開発されているものが多い。

社会的な観点ではあらゆるイノベーションは広く普及することが求められる。従来の生産者によるイノベーションの場合、具体的な利益につながる商業化へのインセンティブによってイノベーションが拡散する。一方でユーザーイノベーションの拡散メカニズムには以下の3つがある:
  1. ユーザーが自身のイノベーションを無償で公開する
  2. ユーザーが自身のイノベーションを商業化する
  3. 企業がユーザーイノベーションを取り込み商業化する
理想的にはユーザーイノベーションもまた効率的に社会を伝搬すべきである。実際は多数のユーザーが類似のニーズを元に類似のイノベーションの創出に取り組む傾向があるため、生産者によるイノベーションと比べて無駄が多い。

なぜユーザーイノベーションが重要なのか?

ユーザーイノベーションはイノベーションの創出に必要な情報の粘着性(sticky information)の問題を解決する。

ニーズを認識しているユーザーが生産者にその情報を正確に伝えることは難しい。そこでユーザーがイノベーションの試作品を生産者に見せることで問題が解決できる。その他の要素であるソリューションに関する情報や開発能力はニーズに関する情報と比べて獲得しやすく、イノベーションの障害とならない。

生産者である企業にとってユーザーと顧客が同一でない場合がある。消費財メーカーの場合、ユーザーはしばしば顧客そのものである。一方で多くのBtoB企業の場合、ユーザーと顧客は異なっている。ユーザーが持つsticky informationは仲介者である顧客に対しても正確に伝えられない。そのため企業は直接の顧客に加えてエンドユーザーにも注目する必要がある。

HarhoffはEU・イスラエル・アメリカ・日本の発明者/企業を対象とした調査を通じて、ユーザーイノベーションについての分析を行っている。本報告ではイノベーションの創出において生産者である企業とユーザー/顧客が公式/非公式に協業した場合、生み出される特許の価値や商業化の可能性が向上すると結論づけている。

(参照)
Harhoff D (2016) Context, Capabilities, and In centives - The Core and the Periphery of User Innovation, In Harhoff D, Lakhani K R (eds) Revolutionizing Innovation Users, Communities, and Open Innovation, MIT Press, Cambridge, Massachusetts, 27-44

ユーザーは投資を伴わずに既存の知識や能力を用いてイノベーションに取り組むため、コスト面で企業よりも有利である。Luethjeらはユーザーイノベーションが生産者によるイノベーションと比べて以下の強みを持つと報告している
  1. 機会の同定とニーズの理解
    • 自身が把握しているためニーズ情報へのクセスが容易である
    • ニーズを明らかにするために日々の活動を通して様々な検証を行える
  2. ソリューションの開発
    • よりオープンかつ柔軟に複数の知識を組み合わせられる
    • 規制・安全基準・権利などを考慮する必要がない
    •  サンクコストの影響が少ない
    •  他人が見出したソリューション情報へのアクセスが容易である
  3. ソリューションの検証と改善
    • 日々の活動を通してソリューションを検証できる
    • 試作したものを自身で検証できる
    • 素早く安価に試行錯誤を行える
    • 他人が行った試験結果をより深く理解できる
(参照)
Luethje C, Stockstrom C (2016) Cost Advantages in Innovation - A Comparison of Users and Manufacturers, In Harhoff D, Lakhani K R (eds) Revolutionizing Innovation Users, Communities, and Open Innovation, MIT Press, Cambridge, Massachusetts, 45-65

つまり従来の生産者によるイノベーションと比較して、ユーザーイノベーションはより低いコストで高い成果を実現できる。

オープンイノベーションとユーザーイノベーションの違い

オープンイノベーションは「組織の境界線にとらわれず、内部と外部のあらゆるリソースを効率よく組み合わせることでイノベーションの創出を最大化する」考え方である。対象がユーザー/顧客である時に、ユーザーイノベーションの考え方が用いられる。

前述したようにイノベーションの創出にはニーズに関する情報・ソリューションに関する情報・ソリューションの開発能力が必要である。最も獲得が難しいものがニーズ関する情報であり、それを対象とするユーザーイノベーションはオープンイノベーションを検討する上で重要な考え方である。

おわりに

本稿ではオープンイノベーションと共に議論されるユーザーイノベーションについて紹介した。クラウドソーシングと同じくオープンイノベーションに関連が深い研究領域であるため、引き続きその動向に注目していきたい。

Tom

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