(オープンイノベーション講座-8)
オープンイノベーション仲介業者

以前の記事でオープンイノベーション活動を自社単独で実行する代わりに、オープンイノベーション仲介業者を活用できると説明したオープンイノベーション活動にどのように取り組むか?基礎編)。本稿ではオープンイノベーション仲介業者について紹介する。

オープンイノベーション仲介業者とは?

オープンイノベーション仲介業者(Open Innovation IntermediaryまたはOpen Innovation Accelerator)は企業がオープンイノベーション活動を効率よく推進するために、オープンイノベーションの手法やソフトウェアの提供・外部コミュニティへのアクセス権の付与・オープンイノベーション教育/プロセス導入支援を行うサービス企業である。老舗企業の多くは2000年前後に創業しており、世界中で数百社が存在している。

イノベーションはニーズとシーズの情報が融合した際に起こるが、両者を保有する組織が異なる場合はマッチングが難しい。適切なマッチングのためには相手側の詳細な情報が必要である。しかしながら先に情報を提供すると、相手の中でマッチングが起こることで自分側情報に価値が無くなる可能性があるそこでオープンイノベーション仲介業者が両者に中立の立場を取って仲立ちすることで、より効率的なマッチングが実現できる

情報インフラとしての機能を持ったオープンイノベーション仲介業者には、両者の情報を保護・管理する能力やニーズとシーズの情報を多数集めた市場を形成する能力が求められる。

業種を問わず仲介的なサービスを行う企業には内外から情報が集まる。さらにはマッチングを行う数が圧倒的に多いため時間と共により多くの知見が蓄積されていく。 

したがって企業はオープンイノベーション仲介業者を適切に活用することで、オープンイノベーション活動を効率よく推進できる。さらにはその仕事ぶりを見ることで自社の活動に役立つノウハウが学べる 

オープンイノベーション仲介業者を扱った文献

企業のオープンイノベーション活動を対象とした研究が進むにつれて、オープンイノベーション仲介業者についての報告も増えている。Yeらはオープンイノベーション仲介業者をknowledge brokerと位置づけ、4社のケーススタディを通じてその機能分析している

ポイントは以下の通り:
  • 対象としたオープンイノベーション仲介業者はInnoCentiveNineSigmaTaskCoWilogoである
  • オープンイノベーション仲介業者は以下の役割を通して企業と外部ソースの間の複雑な知識の移転を促進する
    • 外部の知識にアクセスする
    • 企業と外部ソースの橋渡しをする
    • 企業の課題を明らかにする
    • 企業と外部ソースの間の知識の移転を促す
    • 企業内でイノベーションを起こす環境を作る
  • オープンイノベーション仲介業者が成功するために必要な能力は次の通り
    • 課題設定力:
      顧客企業の課題を潜在的解決者に分かりやすく伝える能力
    • 課題-解決者マッチング力:
      顧客企業の課題を潜在的解決者に認知させる能力
    • 提案フィルタリング力:
      顧客企業が求める真のニーズを読み取り、提案の選定を助ける能力
(参照)
Ye H J, Kankanhalli A, Yang Z (2012) Knowledge Brokering for Open Innovation: A Case Study of Innovation Intermediaries, Thirty Third International Conference on Information Systems, Orlando

Pillerらは2013年にオープンイノベーション仲介業者を対象とした大規模な調査を行っている。

ポイントは以下の通り:
  • 2013年時点で世界中に180社以上のオープンイノベーション仲介業者が活動している
  • オープンイノベーション仲介業者の多くは欧米諸国に本社を構えている
  • アジアに大きな潜在需要が見込まれている
  • 2013年時点での市場規模は270EURであり、2015年には550EURになると予測されている
  • オープンイノベーション仲介業者が提供するサービスの中で最も売上高の比重が高いものはオープンイノベーションコンテストであり、市場全体の80%を占めている
  • 2010年調査時に対象となった企業の20%2013年時点で存在していない
  • 今後業界内でM&Aが活発になることが予想されている
  • プロジェクト1件当たりの費用の平均は43,000EURである
  • 多くのサービスは知識労働集約型であり、オープンイノベーション仲介業者の成長において能力が高い人材の採用活動がボトルネックになっている
  • オープンイノベーション仲介業者は顧客に代理してオープンイノベーション活動を行う企業と、顧客自身がオープンイノベーション活動を行うことを支援する企業に分かれている
  • オープンイノベーション仲介業者は平均して20,000名のネットワークを保有しているが、100,000名を超えるところもある
  • オープンイノベーション仲介業者が保有するネットワークは、登録者の属性・地域・質の点で大きく異なっている 
(参照)
Piller F, Diener K (2013) Brokers and Intermediaries for Open Innovation A Global Market Study, Innovation Management.se

Roijakkersらは企業がオープンイノベーション仲介業者を活用する方法についてアドバイスしている

ポイントは以下の通り:
  • 企業がオープンイノベーション仲介業者と協力して外部技術を探索する際には、以下の4つのフェイズに分けて行うとよい:
    • Orientation:
      両者が技術ニーズを協業パートナー候補が理解しやすい形に文書化する
    • Exploration:
      オープンイノベーション仲介業者が保有するネットワークを用いて提案を集める
    • Selection:
      両者が協力して提案を絞り込む
    • Engagement:
      オープンイノベーション仲介業者の支援の元、企業が提案者と交渉する
  • 先進的な大企業はオープンイノベーション仲介業者を活用する能力に長けている
  • 限定されたリソースのために自前でのオープンイノベーション活動が困難な中小企業は、オープンイノベーション仲介業者ではなく個人のコンサルタントを用いている
  • オープンイノベーション仲介業者は従来のorientation/explorationフェイズに重みを置いた支援から、selection/engagementフェイズにサービスの軸足を移してきている。
  • オープンイノベーション仲介業者は企業のオープンイノベーション活動に対する総合的なコンサルティングを目指している
  • 受け取る提案の質はOrientationフェイズにおける技術ニーズの文書化の際に決まる
  • オープンイノベーション仲介業者の活用に長けた企業はトップマネジメントのオープンイノベーション活動に対するコミットメントが高く、社内における活動の中心的な役割を担うOI championを置いている。また社内で戦略的重要度の高いプロジェクトを対象としている
  • 大企業のオープンイノベーション活動についての経験値が増すにつれ、オープンイノベーション仲介業者はより洗練された形でサービスを提供するようになってきた。一方で中小企業の多くは未だ基本的なサービスを求めている
  • 外部技術探索の経験を積んだ大企業は自社のオープンイノベーションコンテストを開発している
(参照)
Roijakkers N, Zynga A, Bishop C (2014) Getting Help from Innomediaries: What Can Innovators do to Increase Value in External Knowledge Searches?, In Chesbrough H W, Vanhaverbeke W, West J (eds) New Frontiers in Open Innovation, Oxford University Press, Oxford, 242-255 

オープンイノベーション仲介業者の例

オープンイノベーション仲介業者の例を示す:
オープンイノベーション仲介業者は様々な業種・技術分野を対象とする分野横断型と、特定領域を専門とする分野特化型の企業に分けられる。前者の例としてIdeaConnectionInnoCentiveNineSigmayet2.comを、後者の化学分野の例としてSpecialChemを取り上げ、主なサービスや最近のニュースについて紹介する。 


IdeaConnection

主なサービス(R&D Problem Solving)
  • 顧客の課題に対して保有する専門家のネットワークから適した人材を抽出して複数のチームを編成する
  • 課題をweb上で非公開にできる。また解決者チームに対して自社名を伏せられる
  • モチベーションの向上のため報奨金を設定する
  • チームは課題解決に約12週間取り組み、最終的に顧客は2~8個の提案を受け取る
  • 顧客が結果に満足しない場合、報奨金を支払う必要がない
  • 報奨金が支払われた提案のIPは顧客のものになる
(参照)
  • 2015/8/29:Innovation program management softwareを販売しているBrightidea(本社:サンフランシスコ)とパートナーシップを締結した。Brightideaの顧客がIdeaConnectionの保有するネットワークにアクセスできるのに対して、IdeaConnectionの顧客はBrightideaのソフトウェアを使用できる
(参照)

InnoCentive

主なサービス(Challenge Programs)
  • 保有しているネットワークの登録者は375,000名である
  • Premium Challenge ProgramsCustom Challenge ProgramsInnoCentiveが保有する専門家のネットワークに課題を投げ掛ける
  • InnoCentive@Workは組織内から提案を集める社内オープンイノベーションシステムを提供する
  • Premium Challenge Programsは以下のタイプに分かれている:
    • Ideation:アイデア募集である
    • Theoretical:実行計画まで踏み込んだコンセプトを対象としている
    • Reduction-to-PracticeRTP):試作品などの実証結果付きの提案が対象である
    • Big Data “Prodigy”:計算科学に関する課題で提案に対するフィードバックが得られる
    • Electronic Request for ProposaleRFP):サプライヤーや専門家を探せる
    • Novel Molecule Challenge:商業化されていない化合物やバイオ材料の募集である
  • Custom Challenge Programsは顧客のニーズに沿った形式の募集を行える
  • InnoCentive@Workは社内のオープンイノベーションコンテストを運用・記録できるクラウドベースのシステムが提供される
(参照)
  • 2015/7/10NASAの有人探査を目的としたオープンイノベーションイニチアチブにおける協業パートナーとなった。InnoCentive2009年以降に複数のNASAの募集を成功させてきた
(参照)
  • 2015/7/3
    製薬・化学業界向けデスクトップアプリケーションを提供している
    ChemAxon(本社:ブダペスト)と技術パートナーシップを締結した。Innocentiveの顧客(主に製薬企業)はInnoCentive@Work上でChemAxonの化合物描画ツールが使用できる
(参照)

NineSigma

主なサービス(Technology Search)
  • Technology Searchはオープンイノベーションコンテスト型のサービスであり、顧客の技術的な課題を元にRFPRequest for Proposal)を作成して潜在的解決者から提案を募る
  • 従来は電子メールの配信リストに基づきRFPを送付して提案を集めていたが、独自のコミュニティ(NineSightsの登録者からの応募に切り替えようとしている
  • 募集における匿名性が売りである
  • Grand ChallengeInnovation ContestTechnology Searchと同じ仕組みでより積極的な認知活動を行
(参照)
  • 2016/10/19
    U.S.
    General Service Administration
    5年間の契約を締結した。NineSigmaU.S. Federal Governmentが実行する予定のオープンイノベーションコンテストの企画・運営に入札できる
(参照)

yet2.com

主なサービス(yet2 Marketplace)
  • 技術ニーズとシーズを多数取り揃えることで、買い手と売り手を効率よくマッチングさせることを目指したサービスである
  • ニーズは大企業のものが多い
  • 紹介記事などの様々なオプションサービスを提供しており、これらの手段でシーズやニーズの露出を高められる
(参照)
  • 2016/10/1
    独立して投資を行っていることを外部に示すため、2010年に設立したベンチャーキャピタルであるyet2Venturesの名称をChartline Capital Partners変更した
(参照)

SpecialChem

主なサービス(Commercial Acceleration)
  • 保有しているネットワークの登録者は500,000名で、いずれも化学分野(Plastics & elastomers, Coatings & inks, Adhesive & sealants, Cosmetics ingredients, Polymers additives, Bio-based Chemicals & Materials)に属している
  • Commercial Accelerationサービスは新製品開発におけるマーケティング支援であり、新製品の対象となる潜在顧客をネットワーク内で特定後に5段階(Exposure, Education, Leads, Opportunities, Evaluation)からなるデジタルマーケティングを適用する
  • 化学品のユーザーに有用な情報を提供することでネットワークに囲い込み、それを元にした各種サービスを化学メーカーに販売している
(参照)
  • 2016/10/27
    塗料・塗装業に関する情報を扱う塗料報知新聞社とパートナーシップを締結した塗料報知新聞社の
    web上でSpecialChemが提供する塗料・コーティング・インク材料のオンラインデータベースであるUniversal Selectorが利用できる
(参照)

オープンイノベーションコンテスト型サービスにおける各社の特徴

企業がアウトサイドイン型のオープンイノベーション活動で外部からシーズ(アイデア/技術/製品)を導入する際、オープンイノベーション仲介業者を活用できる。

例えば前述した5社はいずれもオープンイノベーションコンテストや類似した仕組みのサービスを提供している。コンテストの結果に大きく影響する要素として認知活動を行う母集団の属性・地域・質があり、保有するネットワークに依存する。

各社のネットワーク・サービスの特徴・適した課題や対象シーズについてまとめた
上記に加えてサービスの質や価格にも差があるため、検討する際は各社から詳細な説明を受けた上で比較することが望ましい。課題による各社の得意・不得意は試してみないと分からない点も多いため、予算が許す範囲で使ってみるとよいかもしれない。

おわりに

前述したPillerらの報告によると、オープンイノベーション仲介市場の80%をオープンイノベーションコンテストが占めている。これはオープンイノベーション仲介業者の多くが本サービスを主力としていることを示唆している。

一方でweb-siteやニュースを見ると、各社様々な収益源を求めて独自の道を歩み始めているように思える。例えばInnoCentiveは社内オープンイノベーション支援、NineSigmaはオープンイノベーションに関する教育やデザイン思考の活用、yet2.comは企業オープンイノベーションポータルサイトの構築やベンチャーキャピタルなどのサービスに取り組んでいる。

しかしながら多くのサービスが知識労働集約型である以上、短期間での大きな成長は難しい。これに打ち勝つにはプラットフォームを活かしたビジネスモデルに転換するか、アルゴリズムによる自動化やデータ分析を活かしてサービスの工数を削減する必要があるだろう

オープンイノベーション仲介業者を活用する企業には仲介市場の最新動向に継続的な注意を払い、より良いサービスを探す姿勢が求められる。

Tom

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可能な限りご返事いたします。
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