(オープンイノベーション講座-11)
オープンイノベーションの評価指標

本稿ではオープンイノベーション活動を評価し、改善につなげるための評価指標について説明する。

適切な評価指標を見つける

特定の活動を継続する場合、評価指標を設定して記録することが望ましい。そうすれば評価指標の推移を見ることで、活動の改善に取り組める。効果的な評価指標を入手するコストが高すぎる場合もあるし、目標と相関しない評価指標を用いると状況が悪化する。よってオープンイノベーション活動に取り組む組織は適切な評価指標を見つける必要がある。

以前紹介したChesbroughの調査によると、多くの企業が現在の評価指標に不安を抱いている(オープンイノベーションの現状)。数少ないものとして「個々のR&Dプロジェクトに対して外部のイノベーションが貢献した割合」・「イノベーションパートナーのコスト/ベネフィット評価」・「イノベーションパートナーの数」などが肯定的に捉えられているものの、その満足の度合いは低い。

アウトサイドイン型の活動の場合、導入技術が最終的に生み出した金銭的な貢献度が説得力のある評価指標となるだろう。しかしながら製品化までに必要な期間を考えると、そのような評価指標が利用できるまでに長期間待たねばならない。その間の活動の継続と改善のためにも評価指標が必要である。

評価指標作成のためのフレームワーク

Erkensらは2012年に大企業を対象とした調査結果に基づいて、オープンイノベーションの評価指標を創り出すフレームワークを提案している。

ポイントは以下の通り:
  • オープンイノベーション活動の評価指標のための明確なガイドラインは存在しない
  • 良い評価指標があれば付加的なコストを掛けずにオープンイノベーション活動のリターンを高められる
  • 多くの企業がR&Dや製品開発で従来用いられてきた評価指標(過去1年間に出願した特許数や従業員が出したアイデアの数)を用いているが、ほとんど効果が見られない
  • 「オープンイノベーションの手法」・「評価指標のタイプ」・「使用法」の3つの特性の組み合わせに基づいてKPI(重要業績評価指標)を設定する評価指標フレームワークを考えた:
    • オープンイノベーションの手法
      • 手法ごとに目的や対象が異なるため、それぞれに特有の評価指標が必要である
    • 評価指標のタイプ
      • 全体のパフォーマンスを評価するためには、以下のフェイズの評価指標を組み合わせることが望ましい
        • Input KPI:
          プロジェクトで使用したリソース(投入した工数・費用など)
        • Process KPI:
          インプットをアウトプットに変換する際のプロセス効率(時間差異・予算差異など)
        • Output KPI:
          プロジェクトが生み出した直接的な結果(アイデア数・特許数など)
        • Outcome KPI:
          金銭的な成果(生み出した市場価値など)
    • 使用法
      • 評価指標には以下の3つの用途がある
        • Instrumental use:
          意思決定に用いる
        • Conceptual use:
          具体的なアクションと関係なく、啓蒙や理解のために用いる
        • Symbolic use:
          意思決定を行った後に、判断を正当化するために用いる
  • 大企業を対象とした調査結果に基づき、評価指標フレームワークから実用的なKPIを特定した
  • 企業のイノベーション責任者は評価指標をconceptual/symbolicに用いることが多い。これはオープンイノベーションプロジェクトの不確実性が高く、意思決定に有効な評価指標がないと考えているからではないだろうか
  • Inputやoutcomeフェイズの評価指標はinstrumentalに、outputフェイズのものはconceptual/symbolicに用いられやすい
  • アイデアの新規性のようなものを評価することは難しいため、分かりやすい金銭的な評価指標が好まれている
  • 調査結果から優先度の高い評価指標を選んでスコアカードを作成した
  • 有効な評価指標はイノベーションのレベル・企業の能力・企業文化によって異なるため、自社に適したものに調整する必要がある
(参照)
Erkens M, Wosch S. Piller F, Luettgens D (2014) Measuring open innovation – A toolkit for successful innovation teams, Peformance, 6 (2), 12-23

KPIを決める特性の中に使用法が含まれる点は興味深い。イノベーションチームが活動を改善するために必要な評価指標と、オープンイノベーション活動の啓蒙や理解を目的とした評価指標が異なる可能性がある。

本報告で紹介されているスコアカードには企業の実務者からの意見が取り入れられており、新しく評価指標を設定する場合のたたき台として利用できる。

オープンイノベーションポータルサイトのための評価指標

Carpenterはオープンイノベーションポータルサイトを立ち上げてアイデアを募る際に役立つ評価指標を提案している。

ポイントは以下の通り:
  • イノベーションの3つのフェイズとそれぞれの評価指標は以下の通り:
    • Sourcing:
      ユニークログイン数の傾向, 複数回ログイン数の傾向, アイデア提案者数のユニークログイン数に対する比率, アイデアあたりの平均コメント数, コメントあたりの平均返答数, アイデアあたりの平均投票数, ユニーク組織/部門/地域数
    • Decisioning:
      追加レビューに進んだアイデアの比率, 投票/コメント数の上位5アイデアが追加レビューに進んだ比率, 最初にレビューされたアイデアが追加情報のために提案者に差し戻された割合, それぞれのアイデアがdecisioningフェイズの最終判断までに要した時間, レビューされたアイデアがactingフェイズに進んだ割合
    • Acting:
      アイデアあたりの平均実験数, それぞれのアイデアがactingフェイズの最終判断までに要した時間, 最終的に採用されたアイデアのactingフェイズまで進んだアイデアに対する比率, 最終的に採用されたアイデアのプロジェクト価値
  • これらの評価指標の活用にはイノベーションマネジメントソフトウェアの使用を前提としている
(参照)
http://customerthink.com/16-metrics-for-tracking-collaborative-innovation-performance/

本報告はオープンイノベーションポータルサイトに限定して議論しているが、具体的な評価指標が提案されていて参考になる。

複数のオープンイノベーション仲介業者がオープンイノベーションポータルサイトの作成支援サービスを提供している。それらの活用を検討する際に、上記のような評価指標の有無に注目するのも1つではないだろうか。

世の中には様々な分野のポータルサイトが存在しているが、各々が改善のために有効な評価指標を設定していると推測される。よってオープンイノベーション仲介業者ではなく一般的なITベンダーに相談することで、役立つ知見が得られるかもしれない。

自社に合った評価指標を作る

これまでに評価指標の現状と具体例を紹介した。結局は様々な視点から異なるタイプの評価指標を複数設定し、試行錯誤する中で自社に適したものを見つけるしかない。その際は以下の2つに分けて考える:
  1. オープンイノベーション活動全体の評価指標
  2. オープンイノベーションの手法ごとの評価指標
オープンイノベーション活動全体の質を上げるために1の評価指標を、各々の手法を改善するために2の評価指標を用いる。

1の評価指標としてイノベーション活動に投入したリソース量・企業のイノベーション活動に対する内外の認知度・協業パートナーの満足度・活動から生み出された金銭的な価値などが考えられる。これらを用いてオープンイノベーション活動に取り組まない場合と比較することで、活動全体を継続すべきかが判断できる。

また2の評価指標を作るための手順は次の通り:
  1. 評価指標のたたき台を作る
    • 他で使われているものを拝借する:
      同じ手法や他の分野の構造が同じ例を探す
    • 自分で見つける:
      用いる手法を各ステップ毎に分けて考える
  2. しばらく運用する
  3. 定期的に取捨選択する

おわりに

オープンイノベーション活動を推進する立場からすると、評価指標はあったほうがよい。活動を改善するために役立つし、トップマネジメントを説得して社内の反対者を押し切るためにも活用できる。ただしそれぞれの目的に別々の評価指標を設定する必要がある。

製品開発のやり方が異なれば有効な評価指標も異なるはずである。たとえ同一の企業であったとしても、社内の事業部ごとに適切な評価指標が異なるかもしれない。

評価指標を取り巻く状況に明確な答えはない。加えてイノベーション活動には創造性が必要なため、評価指標の使い方によっては活動に柔軟性がなくなるかもしれない。以上を踏まえて慎重に運用することが求められる。

Tom

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