(オープンイノベーション最新情報-34)
複数事業を営む企業の社内オープンイノベーション活動

複数の事業を営む企業による社内オープンイノベーション活動の事例を調査した報告が出ています。

Complementing open innovation in multi-business firms: practices for promoting knowledge flows across internal units
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1111/radm.12343

ポイントは以下の通りです:
  • 社外の組織と協業するオープンイノベーション活動には様々なメリットがあるものの、探索・移転・運営などの取引コストが生じてくる
  • 複数の事業を営む大企業では異なる部門間の知識のやり取りを活発化させる活動も行われており、社外を対象とした活動を代替もしくは補填できる可能性がある
  • 社内オープンイノベーション活動を対象とした報告はこれまでにほとんど行われてこなかった
  • 本報告では非金銭的な褒賞システムとデジタルまたはフィジカルな統合システムによって、社内オープンイノベーション活動が効果的に促進されることを見出した
  • 対象はドイツ・オーストリア・スイスに拠点がある14社で、いずれも複数の事業を営みかつ社内外を対象としたオープンイノベーション活動を実施している企業である
  • 調査の結果、対象となった企業は5つの手法を用いて社内オープンイノベーション活動に取り組んでいることが明らかになった。それぞれの特徴は以下の通り:
    • Knowledge Sourcing
      • 特定の課題に対する解決策を全社員に呼び掛ける
      • ITベースのプラットフォームを整備することで、情報交換が促進される
      • 認知度の向上やネットワーキングの機会がモチベーションとなる
      • 社内のリソースを効率よく活用できる
      • 協力する文化を作ることが課題である
    • Incentivized Ideation
      • 新しいイノベーションの機会を見つけるために、アイデアコンテストを実施する
      • トップマネジメントが特定の分野の課題を設定することが多い
      • 提案したプロジェクトの実施主体となれることがモチベーションとなる
      • 社外のものより受け入れやすいアイデアが出る可能性が高い
      • 各部門を説得して提案を引き出す難しさがある
    • Cross-fertilized Innovation
      • 部門間の密なやり取りを通じて、排他性のあるイノベーションを横展開する
      • 部門を跨いだジョブローテーションが効果的である
      • 部門の業績向上が間接的な動機となり得る
      • 知的財産権などの自社固有の強みを効率的に活用できる
      • 部門間の関係を維持するコストが掛かる
    • Innovation Brokerage
      • 仲介組織が部門間のイノベーションのやり取りを支援する
      • 本社部門として仲介組織を設置するとよい
      • 元部門にとってのメリットが薄いため、仲介組織の働きが鍵となる
      • 他部門で実証されている事実がイノベーションの採用を促進する
      • 適切な文書化など、受入部門の理解を得るための仕掛けが必要である
    • Sponsored Innovation Roll-out
      • 部門を越えたイノベーションの発表会を開催する
      • フィジカルとデジタルの両方の活動を組み合わせるとよい
      • イノベーションプロジェクトへの資金提供がモチベーションとなる
      • 事業部門が斬新なイノベーションに気軽にアクセスできる
      • 成熟度の低い技術を育てていくための信頼関係が求められる
  • 全ての事例が特定の部門で成功した解決策の水平展開、もしくは開発/実行段階に要するコストと時間の削減を目指していた
  • 以下の統合メカニズムでコストと時間の削減が達成される:
    • 排他的な各種リソースを広範囲で活用する
    • イノベーションのプロセスをあらゆる段階で民主化する
    • 仕組みや文化を整えてイノベーションのプロセスを強化する
  • 全ての事例において、社内における認知度の向上や提案したプロジェクトを実施する権利など、金銭的なインセンティブに頼らない褒賞システムが用いられていた
  • 対象となった企業は取引コストの低さと従業員が協力する文化の醸成を理由に、社内オープンイノベーション活動を実施している

社内オープンイノベーション活動の進め方 

以前の記事で社外の組織を対象としたオープンイノベーション活動に取り組む際の一般的な流れを説明しました(オープンイノベーション活動にどのように取り組むか? 基礎編)。同様に社内オープンイノベーション活動に取り組む際の進め方を説明します:
  1. 自社の状況を分析する
  2. 社内オープンイノベーションの手法を選択する
  3. トライアルを行う
  4. 本格的な運用を行うためのプラットフォームを構築する
最初に現状の問題点を明らかにすることで、達成したい目標を設定します。拠点が世界中に分散していたり日本国内だけでも複数の研究所を持っていたりしている場合は、お互いのイノベーションを共有することが有効かもしれません。分野が異なる事業部門があれば、課題に対して全く別の視点からアドバイスが得られる可能性もあります。また社外を対象としたオープンイノベーション活動の課題も整理しておきます。

次は目標を達成するために手法を選択するステップです。本記事で紹介した5つの分類やそれぞれの特徴が参考となるでしょう。いずれの手法もトライアルを数回行う程度では大きな費用は掛からないため、それほど悩む必要はありません。

トライアルを行う際には最初から全社的に展開するのではなく、対象を一部に限定して行うことをお勧めします。規模が小さくなればなるほど、既存のITシステムと人手に頼った実施が容易になります。その他にインセンティブなど参加する社員のモチベーションを高める仕組みも決めておきましょう。

トライアルを通して手法の有効性を確認した後は、ITプラットフォームの導入を検討するステップです。課題に対する解決策を探したりアイデアコンテストを実施したりする試みの生産性が大幅に向上します。既に社内外のオープンイノベーション活動に利用できるイノベーションマネジメントソフトウェアが様々なベンダーから提供されており、自社独自のシステムを開発する必要はありません(イノベーションマネジメントソフトウェア)。

個々の研究者や技術者が日常業務で接触している人の数は予想以上に少ないのではないでしょうか。それを踏まえると世界中に拠点を持つ多国籍企業だけでなく、従業員が数百人程度の国内メーカーでさえも、社内オープンイノベーション活動が有効であると考えられます。

Tom

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